高校の1人1台配備は進んでいるらしい
先日2018/2/26旺文社の全国高校のICT活用状況調査の結果が発表された。この手の調査といえば、文科省が毎年行っている「学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」のほうが大がかり(高校は3594校)だが、範囲は公立校のみなので私立学校との傾向差がよく分からない。旺文社の当該調査は公立・私立を網羅して1200校強のデータを集め、同様の設定質問紙で昨年も調査しているので、経年変化を追うことが出来る。本稿では記事にある数字を読みながら考察してみたい。
デスクトップからノート・タブレットへ
配備台数を問わず導入有無の統計比較によると(項目は2017→2018の数値)、デスクトップ型PCが微減であるのに対して、ノート型・タブレット型PCの伸びが大きい。小中学校ではもっとはっきりとした傾向が出るように思うが、配備機材の入れ替えでデスクトップPCからノート型・タブレット型PCに移行していることがうかがえる。デスクトップ機と可搬型機材とでは画面の大きさもインタフェースまわりの耐久性も違うのだが、そのへんを見越した導入になっているかどうかが気になるところだ。
- 電子黒板・プロジェクター 72.3%→73.3%
- デスクトップ型PC 63.9% →61.9%
- ノート型PC・タブレット型PC 54.8%→58.7%
もうひとつ気になるのは、電子黒板・プロジェクターの導入率が、まだ7割台に留まっていることだ。学習者側の情報端末活用よりも大型提示装置の運用のほうが従来からの一斉授業には馴染みやすいし、扱う学習内容が多ければ多いほど電子教材は機動力を発揮しやすい。数年前に韓国の学校を訪問した際にも、中高ではコンピュータ教室よりも一般教室のプロジェクター配備と利用稼働率の方が圧倒的に高かった。「教える内容が多いので、板書では間に合わないんです」という教員の説明が忘れられない。
- 生徒の私物端末(スマホ・PC等)→12.5%
プレス記事には記述がないのだが、生徒の私物端末(いわゆるBYOD)に関する項目もある。これが意味する状態・定義は不明だが、私物端末の持ち込み利用を許可している割合とすれば、12.5%を高いとみるか、低いとみるかは解釈が分かれそうだ。
無線LAN整備は44.9%
ネットワークに関する質問は2018年のみのようだ。エリアの大小にかかわらず無線ネットワークが利用可能なのは44.9%にとどまっている。ICTの日常化を前提とすれば、校内全域か通常教室の無線ネットワーク化が必要だが、この基準に達している学校は19.7%に過ぎない。生徒には自由にログインを認めない学校もあり得るのだから、実際にはもっと少ない割合になるだろう。
- 校内のどこでも無線ネットワーク →9.5%
- 校内の通常教室で無線ネットワーク →10.2%
- 校内の一部エリア・教室で無線ネットワーク →25.2%
- 校内の一部エリア・教室で有線ネットワーク →46.0%
- 生徒が使用出来るネットワーク整備なし →7.7%
- ネットワーク環境全く整備なし →1.5%
タブレットPC1人1台配備は16.9%
筆者はノート型とタブレット型は同じカテゴリで扱うべきだと考えているし、高校生ならタブレットよりはクラムシェルタイプのノートPCだろうと思うのだが、こちらの調査ではタブレット型PCに絞り込んだ配備動向を尋ねている。
- 配備台数に限らず導入済みの学校 29.6%→33.0%
- 2017調査では導入済み国公立26.2% 私立37.1% 、平均配備台数 国公立27.9台 私立49.4台
- 生徒1人に1台配備 8.6%→16.9%
タブレット型PC導入は昨年度よりも増加していること、国公立よりも私立が先行していること、導入台数も国公立と比べると私立の方が圧倒的に多いこと、生徒1人1台配備が昨年度よりもほぼ倍増の16.9%であることが分かる。配備台数は共有型とするか、全員に持たせるかで大幅に違うので、度数分布を参照したいところだ。
タブレットPC導入予定は微減
- 2017年導入予定あり 19.2%
- 生徒1人1台全学年5.6%
- 生徒1人1台一部学年28.1%
- 学年・クラスに一定数12.2%
- 学校全体に一定数54.1%
- 2018年導入予定あり 17.6%
- 生徒1人1台49.7%
- 共有で一定数50.3%
タブレットPC導入予定は19.2%から17.6%へと減少している。導入計画の内訳をみると、2017年は共有型が66.3%、生徒1人1台型が33.7%であるのに対し、2018年は共有型が50.3%、生徒1人1台型が49.7%である。つまり、共有型でのタブレット導入はラッシュが一段落したのに対して、生徒1人1台型の比較的大規模な導入が計画されていることになる。
44.9%は活用出来ていない
導入と運用でもっともに気になるのが実際の活用状況だ。4択の活用状況でネガティブな回答の割合は減少しているものの、まだ44.9%もある。
- 「あまり・まったく活用出来ていない」48.5%→44.9%
具体的な課題として挙げられている項目では、端末数やネットといった環境面が減少している一方で、「教員の活用スキルの引き上げ」が75.1%から77.3%へ増加しているところが特徴的だ。
- 十分な端末数の配備 61.1%→60.3%
- ネットワーク環境の整備 60.3%→58.1%
- 教員の活用スキルの引き上げ 75.1%→77.3%
- 活用に適した場面のみきわめ →40.4
- 利用サービス・コンテンツ内容の充実 →36.2
- 生徒の情報モラルの向上 →39.7
- 情報セキュリティ対策 →32.8
ICTの日常化という文脈から仮説立てて考えれば、生徒や教員の普段使いが増えれば、操作活用スキルはそれほど大きな阻害因ではなくなるので、「教員の活用スキルの引き上げ」の率は減少してよいはずだ。しかし、今年のデータはそれとは逆の傾向を示している。
つまり、端末数やネット環境が充実したことで自然に活用度が上がって、活用スキル課題が解消した学校もあるが、入れてはみたけれど中途半端な運用で上手く活用出来ていない学校の方が多い、ということだろう。いわゆるタブレットの文鎮化である。