日本の幼児はICTに触らせてもらえない

2016/12/6に発表されたOECD PISA2015の【ICT親和性項目】の分析・考察第2弾をお届けする。ICT親和性項目の内訳は次の通り。

IC001 家庭の情報機器環境(利用するか否か)
IC009 学校の情報機器環境(利用するか否か)
IC002 初めてデジタルデバイスを使った年齢 ←今回はこれ
IC003 初めてコンピュータを使った年齢 *
IC004 初めてネットアクセスした年齢 *
IC005 平日学校でのネット利用時間
IC006 平日校外でのネット利用時間
IC007 週末校外でのネット利用時間
IC008 校外の私的用途ICT利用頻度
IC010 校外の学習用途ICT利用頻度
IC011 学校でのICT利用頻度
IC013~015 ICTに関する意識

本稿では【IC002~004 初めてデジタル機器・コンピュータ・インターネットを使った年齢】について取り上げる。
この項目群の回答選択肢は(6歳以下、7~9歳、10~12歳、13歳以上、未経験)の4択になっている。分布特徴が最も現れやすい(6歳以下)を軸に比較する。データは47カ国分だが、比較のために主要10カ国+全体平均のデータを抽出してグラフ化した。

初めてデジタル機器(digital device)を使った年齢

初めてデジタル機器を使った年齢の分布傾向は次の通り、上位・下位・平均は47カ国の結果(分布のグラフはこちら)。主要10カ国で比較すると、日本とシンガポールの6歳以下経験者は全体平均よりは少ないものの、ほぼ同じような分布傾向にある。デジタル機器はタブレットやスマートフォン、ゲーム機などを幅広く含むので、あとの2指標と比べると家庭環境を反映しやすいと言える。

図1 初めてデジタル機器を使った年齢 (主要10カ国)

6歳以下の割合
上位 フィンランド53.5% デンマーク51.3% スウェーデン47.8% エストニア47.6% アイスランド43.8%
全体平均 31.4%
日本 22.9%
下位 タイ14.1% ペルー16.3% 韓国17.6% 中国 18.9% スロバキア19.1%

主要10カ国のグラフで見ると、7~9歳の割合はほとんど同じなのが面白い。47カ国各国の割合を計算して、平均(.3829)と標準偏差から傾向を読んでみると、±1SDの範囲に収まらない国は次の通り。ペルー、ドミニカ共和国、ブラジル、イスラエル、中国、メキシコ、タイは-1SDより低く、ポーランド、スロバキア、クロアチア、ロシア、スロベニア、チェコ、ラトビアは+1SDよりも高かった。中欧の国の割合が高いのは何か理由がありそうだ。

初めてコンピュータを使った年齢

初めてコンピュータを使った年齢の分布傾向は次の通り、上位・下位・平均は47カ国の結果(分布のグラフはこちら)。日本はダントツ最下位で、幼児の生活空間からコンピュータは執拗に排除されているようだ。

図2 初めてコンピュータを使った年齢 (主要10カ国)

6歳以下の割合
上位 イスラエル52.6% スウェーデン49.6% エストニア49.3% アイスランド48.5% フィンランド47.8%
全体平均 28.4%
下位 日本10.7% 中国12.5% メキシコ14.5% ルクセンブルグ15.5% タイ16.3%

初めてインターネットにアクセスした年齢

初めてインターネットにアクセスした年齢の分布傾向は次の通り、上位・下位・平均は47カ国の結果(分布のグラフはこちら)。主要10カ国でみると、アジア勢で唯一シンガポールは平均よりも6歳以下経験者が多い。

図3 初めてインターネットにアクセスした年齢 (主要10カ国)

6歳以下の割合
上位 イスラエル34.3% エストニア31.6% デンマーク30.6% アイスランド30.5% 英国28.0%
全体平均 15.8%
日本 9.3%
下位 ロシア5.3% メキシコ7.5% イタリア7.7% スロバキア7.7% 中国7.8%

アジアは慎重・欧州は積極的

上記3指標について47カ国の上位・下位で比較しても、何が背景因なのか考えにくいので、IMFから2015年の名目GDPと人口データを拾って1人あたりのGDP(USドル換算)のデータと共に各6歳以下割合に関してピアソンの積率相関係数を取ってみた。これによると、上記3指標間はいずれもr=.777~.909で高いが、1人あたりGDPとはr=.041~.152だから相関はほとんどない(あえていえばネット経験は若干高い)。つまり、国の豊かさはICT経験とはあまり関係がない。世界地域による違いが出てくるということは、どうやら子育て全般に対する考え方が影響するようである。

図4 3指標と1人あたり名目GDPとの相関

他国と日本との比較についてみると、いずれの項目も日本の6歳以下経験の割合は平均より低い。主要10カ国で比較すると、アジア4カ国は平均よりも低めだ(ネット経験のシンガポールのみ例外)。これだけでもアジア圏とヨーロッパ圏ではだいぶ状況が違うことが分かる。

フィンランド、エストニア、スウェーデン、デンマークなど割合が上位の国を訪問すると実感するが、幼児がデジタル環境と触れる事に対してあまり躊躇がない。日本の幼児教育ではICTに対する忌避傾向が強いので、この結果はわりと納得出来る数値だろう。

もう1点注目すべき点があるとすれば、お隣り韓国との比較だ。デジタル機器に関してみると日本と韓国の間にはあまり大きな分布の違いがないが、コンピュータとネットに関しては韓国が7~9歳の割合が高いのに対し、日本は10~12歳の割合が一番高い。これには学校教育で扱い始める年齢が関係していると考えられる。

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