情報機器環境はもはや後進国
2016/12/6に発表されたOECD PISA2015の【ICT親和性項目】の分析・考察第4弾をお届けする。
ICT親和性項目の内訳と本稿の内容は次の通り。
IC001 家庭の情報機器環境(利用するか否か)←今回はこれIC009 学校の情報機器環境(利用するか否か)IC002 初めてデジタルデバイスを使った年齢IC003 初めてコンピュータを使った年齢IC004 初めてネットアクセスした年齢IC005 平日学校でのネット利用時間IC006 平日校外でのネット利用時間IC007 週末校外でのネット利用時間IC008 校外の私的用途ICT利用頻度IC010 校外の学習用途ICT利用頻度IC011 学校でのICT利用頻度IC013~015 ICTに関する意識
本稿では【IC001・009 家庭・学校における情報機器環境】について取り上げる。
この項目群の回答選択肢は(設備は利用可、設備はあるが利用不可、設備はない)の3択になっている。つまり、学校側に設備があっても、何らかの制限があって生徒が使えない場合は(設備はあるが利用不可)になるということだ。単純化するために(設備は利用可)のみの割合を47カ国分プロットしたものが、図1(家庭)と図2(学校)である。それぞれ、グレーの線が全体平均で、日本の数値は黄色のマーカーとラインで示した。
家庭における情報機器環境
家庭の情報機器環境についてみると、平均に近いのが「ネット環境・携帯電話(ネットあり・なし)・プリンタ・ゲーム機・電子書籍リーダー」であった。平均よりも高いのは「携帯音楽プレーヤー」、平均よりも低いのは「USBメモリ・ノートPC・デスクトップPC・タブレット」だ。
ちなみに平均よりも日本の数値が偏っている項目の利用可割合と順位はこんな感じ。
携帯音楽プレーヤー 日本68.7%(高い方から5番目)USBメモリ 日本37.9%(最下位)ノートPC 日本42.4%(低い方から5番目)デスクトップPC 日本36.2%(低い方から2番目)タブレットPC 日本34.4%(低い方から7番目)
国によってデバイス特徴が大きく異なるのが興味深い。日本で割合が高いのはいずれも携行可能な小型端末だが、小型化のためにインタフェースを犠牲にしているので知的な生産には向かない。もっぱら情報消費向けの構成だと言える。日本の学校はでコンピュータで処理が必要な宿題を課さないので、デスクトップPC・ノートPC・タブレットPCのような需要を喚起しにくい事が考えられる(この検証はあらためて)。
学校における情報機器環境
学校の情報機器環境についてまとめると、日本の数値は全項目が平均を示すグレーラインよりも左側(低い)にある。47カ国には多くの途上国も含まれていることを前提に考えれば、これはかなり衝撃的な結果といえる。
各項目の利用可割合と順位は次の通り、
ネット接続 日本52.4%(低い方から9番目)データプロジェクタ 日本18.4%(最下位)デスクトップPC 日本42.6%(低い方から9番目)無線ネットワーク 日本21.7%(最下位)電子黒板 日本8.1%(最下位)USBメモリ 日本17.0%(低い方から2番目)ノートPC 日本11.2%(低い方から2番目)タブレットPC 日本7.7%(低い方から3番目)
学校の生徒用情報端末に関して言うと、(デスクトップPC・ノートPC・タブレットPC)が同じカテゴリに入るので図2では分析しにくい。そこで3カテゴリで重複をとってみた。具体的には、47カ国について(デスクトップPC・ノートPC・タブレットPC)のうち、「設備ありで利用可」の選択可能な手段数をカウントする。
手段なし割合についての47カ国の統計は次の通り、日本は貧弱な方から数えて5番目である。
割合が高い国 中国56.0% ブラジル55.9% ポーランド54.7% ラトビア54.4% 日本52.0%各国平均31.8%割合が低い国 英国7.8% オーストラリア8.2% オランダ9.0% スウェーデン13.0% ニュージーランド14.4%
図3は主要10カ国でまとめ直したものである。
学校で情報端末が使えない割合が高いのは日本、韓国、エストニアである。この3国は複数手段の割合も2割以下で環境としては貧弱である。一方、フィンランド、オーストラリア、英国、デンマーク、シンガポールは複数手段を持っている割合が高く、活動にあわせた機器選択が可能なことが分かる。
日本の機器整備基準では、デスクトップPCに加えて可動式タブレットPCを配備することになっているのだが、実際にはPC室のデスクトップPCをタブレットPCに置き換え導入するケースが多いので、当分は複数手段が選択可能な状況にならないだろう。