13 学校の現実を構成する2つのループモデル

09 メディアが現実を構成する」では、一般社会人にとっての学校の現実が、もはや、マスメディアによって構成されているという事を述べました。この記事では、現状と改善目標を理解しやすくするために、「学校の現実を構成する2つのループモデル」を紹介します。

私がこのモデルを考えた背景は、次のような疑問でした。大多数の学校は、いまだ学校サイトをほったらかしにしているのに、なぜ、一部の学校はここ数年で熱心に情報を更新するようになったのか。
少数ではあるものの、学校自身が目的を持って意欲的に取り組んでいる事例に繰り返し触れ、関係者へのインタビューで学んだのは、情報提供に対する価値観が決定的に変化しているということでした。その対比は、(例えは悪いのですが)イソップ寓話の「北風と太陽」のようでもあり、車のギアが後退から前進に切り替わるような、強い印象を持ったのです。

学校現実を構成するネガティブ・ループ

ネガティブ・ループは、学校広報に消極的な学校が陥りやすいパターンです。困ったことに、ネガティブ・ループに陥っている学校の多くは、自らそのことに気づいておらず、また置かれた状況を自ら変えられるとも思っていません。

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図 学校現実を構成するネガティブ・ループ
  1. 消極的情報開示姿勢
    情報開示の意義が十分認識できない学校は、忙しいとか、教員の本務ではないとか、何かと理由をつけて、情報提供の仕事を後回しにします。また、あとで余計な面倒を起こしたくないという思いから、情報提供の頻度は減少し、内容も概要的・形式的なものになります。
    学校に四六時中関わっている人ならいざ知らず、学校と距離のある保護者(特に父親)や、学校の事がよく把握できていない地域の人々にとって、学校が発行する学校だよりや学校サイトは、無味乾燥でつまらないので、読み捨てられるか、無視されてしまいます。
  2. マスメディア・風評>学校
    学校の事がよく理解できない人々にとっては、学校の形ばかりの情報提供より、マスメディアの誇張された学校報道の方に目を惹かれますし、近所の立ち話で話題になる学校の噂の方が、よほど真実味をもって受け取られるようになります。
  3. 不信感(対立と告発)
    マスメディアや風評に影響された人々は、学校に対する疑念と不信感を高めます。学校の具体的な様子がよく分からないのに加えて、想定される最悪の状況がマスメディアや風評によって強化されるからです。さらには、学校が情報開示に消極的な態度を取ることで、何かまずい状況を隠蔽しているに違いない、という憶測を周囲に与えてしまいます。
    疑念や不信感が表面化することは、むしろまれですが、保護者や地域の人々への協力呼びかけは次第に困難になりますし、何か不測の事態が起こった場合には、たとえ学校に非がなくても、溜まっていた不信が一気に噴出することになります。
  4. 萎縮・閉鎖志向、社会的価値の喪失
    不幸にも学校に事件・事故に巻き込まれ、潜在的な不信が表面化した場合、学校側が被る社会的損失は計り知れません。関係者との良好な関係を回復するには何年もの月日を費やさねばならないでしょう。
    もっと厄介で深刻なのは、いわゆる「伝統や評判に胡座をかく」という行為です。築き上げられた良い評判はいつの間にか失われ、学校と保護者・地域との関係は冷え切ったものになってしまいます。

    しかしながら、学校と学校外部とをつなぐ部分にストレスが生じるようになると、多くの学校は、外部との関係維持に対して萎縮傾向を強め、より閉鎖的になってしまいます。そうなれば、もうこのネガティブなループから、自力で抜け出すことはできません。

学校現実を構成するポジティブ・ループ

ポジティブ・ループは、学校自ら積極的広報を行う意義を発見したパターンと言えます。保護者や地域と良好な関係を維持するには、まず自らが情報をオープンにする必要があります。

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図 学校現実を構成するポジティブ・ループ
  1. 積極的情報開示姿勢
    情報開示の意義を認識している学校にとって、学校の毎日の様子を伝えることはごく当たり前の仕事です。
    保護者や地域が求める安心や信頼のために、さりげない「地味でベタな」情報が、多様な視点から届けられると、子ども達の活き活きとした姿や、教職員の細かな心配りや指導上の工夫までもが、伝わるようになります。
    保護者はもちろん、学校に普段密接な関わりを持てない人々(潜在的ステークホルダ)にとって、むしろ、これらの情報は有効に機能するので、学校側から直接アプローチできない対象にも、学校の日常を正確に理解してもらえます。
  2. 学校>マスメディア・風評
    学校からの情報提供が具体的でかつ頻繁であれば、周囲からは真実味があると判断されるので、過激なマスメディア報道や根拠のない悪い噂を打ち消すことができます。
    この際、対象が限定される掲示・配布物よりは、オンデマンドでいつでも情報入手可能なウェブサイトの方が、効果的な提供手段と言えます。
  3. 信頼感(対話と協調)
    学校が熱心に情報を提供する姿勢は、周囲からは外部透明性を高める努力として、社会的評価を受けます。また、学校がなすべき仕事を全うしている、あるいは、マスメディアが報道する学校の姿とは違う、と理解されることで、保護者や地域の人々の学校に対する信頼感は向上します。
  4. 自信と誇り、社会的価値の向上
    学校と保護者・地域との信頼関係は、連携活動や協働を進めるうえでのベースになりますが、これらの成果が具体的な形(イベントや受賞など)となって表れてくれば、周囲の学校に対する愛着やこだわりは、より一層強く盤石なものになります。これらは、学校のみならず、地域も含めた評判・社会的な価値の向上に大いに貢献するでしょう。

    ポジティブなループが一度回り出すと、学校単独の努力に加えて、社会的な評判や協力を加勢に付けることができます。評判に応え、評判を紡ぐとは、つまり、このような地道な学校広報を元にして、はじめて成り立つものだと言えます。

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