学習指導要領とICT活用 #1
先日、2018/2/23愛される学校づくりフォーラム2018in名古屋が開催され、チームのみなさんと「ICT利活用と新学習指導要領」の発表を行ってきた。
学校教育での情報化に関しては方略が間違ってる、というのが元々の主張なので、これまで国の指針にあまり興味がなかったのだが、ネタの持ち寄りで様々インプットいただいた結果、今回の改訂はICTに相当力を入れていることが分かってきた。雑誌や記事ですでに散々紹介されている事の焼き直しかもしれないのだが、ひとまずまとめの意味で記しておきたい。
情報系キーワードの増加
岐阜聖徳学園大学の芳賀先生から学習指導要領から情報系のキーワードを抽出して教科毎に比較する例をご紹介いただいたので、これに倣って新旧学習指導要領と解説総則編にあるキーワードをカウントした(単純に全文検索で件数を数えた)。
平成29年の新要領は全体ページ数も増えたが、情報系キーワードの出現頻度が大幅に増えていることが分かる。
学習の基盤となる情報活用能力
このなかで他所でもしばしば強調されているのは、今回初めて指導要領に「情報活用能力」が明記されたこと。具体的には3カ所、最初は情報活用能力の位置付けについてふれた記述である。
第1章総則:第2 教育課程の編成:
2 教科等横断的な視点に立った資質・能力の育成(1) 各学校においては,児童の発達の段階を考慮し,言語能力,情報活用能
力(情報モラルを含む。),問題発見・解決能力等の学習の基盤となる資質・能力を育成していくことができるよう,各教科等の特質を生かし,教科等横断的な視点から教育課程の編成を図るものとする。(H29 小学校学習指導要領 p.5)
情報活用能力の定義は古く、臨時教育審議会(昭和60~62)に遡り、「教育の情報化に関する手引き」にも記されているのだが、指導要領自体には記述がなかった。注目すべきは教科枠組みにバラバラに能力を当てはめるのではなく、学習の基盤となる資質・能力のひとつとして位置付けられたことで、カリキュラム・デザインから考えれば、天地がひっくり返ったようなインパクトがある。
第1章総則:第3 教育課程の実施と学習評価:
1 主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善(3) 第2の2の(1)に示す情報活用能力の育成を図るため,各学校において,コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を活用するために必要な環境を整え,これらを適切に活用した学習活動の充実を図ること。また,各種の統計資料や新聞,視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること。
あわせて,各教科等の特質に応じて,次の学習活動を計画的に実施すること。
ア 児童がコンピュータで文字を入力するなどの学習の基盤として必要となる情報手段の基本的な操作を習得するための学習活動
イ 児童がプログラミングを体験しながら,コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付けるための学習活動(H29 小学校学習指導要領 p.8)
2つめは、p.5を受けて具体的な内容方法に踏み込んだ記述がなされている。情報環境の整備、教材教具の活用とあわせて、基本的ICTスキルの習得、プログラミングが書かれている。
第5章 総合的な学習の時間:第3 指導計画の作成と内容の取扱い:
1 指導計画の作成に当たっては、次の事項に配慮するものとする。(3) 他教科等及び総合的な学習の時間で身に付けた資質・能力を相互に関連付け,学習や生活において生かし,それらが総合的に働くようにすること。その際,言語能力,情報活用能力など全ての学習の基盤となる資質・能力を重視すること。
(H29 小学校学習指導要領 p.161)
3つめは、総合的な学習の時間のなかで述べられている。この点はのちほど教科の扱いで取り上げることにしよう。
もはや教科教育の添え物ではない
平成20年の学習指導要領では、今回の改訂にあるような「学習の基盤となる資質・能力」についての記述がなく、(情報活用能力の記述もないので)コンピュータは各教科等の指導で活用される一手段としての位置付けに過ぎなかった。かりに、教科教育のなかで情報活用能力的なスキル育成を目指しても、授業時数や内容バランスからは中途半端な活動になりやすく(教科の研究授業では教科学習目標の達成こそが第一で、ICTスキルなんか二の次だ、と露骨に言われることも多い。これは一種のハラスメントである。)、結局のところ、総合的な学習の時間などを上手く使う必要があったわけだ。
このたびの改訂は、全ての教科に横断的に必要とされる資質・能力としての位置付けにあるわけで、つまり、人の話を聞いたり、メモを起こしたり、整理したり、といった日常的な学びのシーンに情報活用能力が持続的に用いられるということだ。この認識の大転換は、教員側の教具的ICT整備に加えて、学習者側の文具的ICTの普及にも大きな弾みをつけるものといえる。
(つぎへ続く)