新たな情報通信技術戦略の策定に関するコメント #3

具体的取組内容に関して重点施策と具体的な取組概要について指摘する。

① 情報通信技術を活用した21世紀型スクールへの転換

21世紀型スクールへの転換という大きな目標の設定は、教育情報化に関する根本的議論を進めるうえでは好ましいものである。以下、概要について述べる。

【課題】「①双方向でわかりやすい授業の実現」のために情報端末やデジタル教科書等を導入しても、教員教具の位置づけであり続ける限り、教員都合が優先されるので、利用場面は限定されてしまう恐れがある。
「子ども同士が教え合い学び合う協働教育の実現」は情報通信技術には依拠しない活動であるが、『学び合い』の実践的効果は大きいので、IT戦略とは切り離しても研究と普及に努めるべきである。

【展望】A)教育の品質向上と高度化 とC)デジタルネイティブのための知的活動支援 の両面を実現することで、学習者の知的発達に合わせたデジタルガジェット(デジタル教科書)の使いこなしと、コミュニケーション・スキルの育成が可能になる。現況の緊急避難的なネット安全教育ではなく、自律的にかつ創造的にガジェットを使いこなす子どもたちの育成を目指す。
これらを実現するには、カリキュラムの見直しが必要である。特に、デジタルネイティブのための知的活動支援は国内の知見がほとんどないので、発達段階に即した情報通信技術との接点の設計、コミュニケーションの範囲や共有についてのインタフェース設計等が必要とされるであろう。

【課題】BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)を十分に行わず「教職員の負担の軽減」のために校務支援システムを導入しても、そもそも目的や効率化についてのコンセンサスがなければ、業者は従来の紙文書仕様に単に準拠するためのカスタマイズに翻弄され、システムが稼働しても、結局、教職員の負担は軽減されない。
また、学校運営のポリシーとして、地域協働や地域学校運営等の方針が十分になければ、学校・家庭・地域連携のためのグループウェアやSNSを導入しても、十分に機能しない。

【展望】A)教育の品質向上と高度化、B)戦略的学校運営と効率化、D)学校広報による信頼形成と教育参画の3点が主に関連する領域である。情報通信技術が学校教育に本格的導入される最大のメリットは、日常的に発生している膨大な教育情報(出欠データから授業進捗まで)が完全にデジタル化されることで、捕捉・集約・分析・処方が可能になることである。これらを学校の自律的効率的経営を目的にして、情報マネジメントを行う。
学校が全国的な位置づけを知る必要があったり、何らかのアドバイスを必要とする場合は、文部科学省や自治体教育委員会から集約データを取り寄せ、共有することで、合理的な意思決定が行えるようにする。

まずは、学校との信頼関係形成、次に学校評価等における説得的コミュニケーション、最終的には学校教育活動への参画や意思決定への関与を目途とし、公(パブリック)を主たる対象とした学校広報活動を展開する。毎日、学校からの日常的な出来事記録とともに、児童生徒個人の学習状況や所見が担任と共有できれば、学校との意思疎通は円滑になり、学校への理解と支持が得られるようになるであろう。

②「KIDSネット」構想の推進

KIDSネットはおそらく子どもたちの知的発達に応じたコミュニケーション環境を設計する上では重要なものである。ただし、概要説明には用語定義上の誤りがあるので指摘する。

【課題】「子どもや親、学校関係者だけがアクセスできる安全・安心な仮想ネットワークによる…」KIDSネット自体は発達過程の子どもが利用者となるので、セミクローズの形態を想定せざるを得ない。ただし、クローズドなネットワークのみを与えても、コミュニケーションが円滑に機能するとは限らない。セミクローズと先に書いたのは、子どもの知的な発達を前提と考えれば、安全性と社会性の両面に配慮する必要があるということである。

「イー・ラーニングを推進」厳密な定義ではe-learningはコースウェアに応じたカリキュラムがあらかじめ決められているタイプの学習を指すのであり、先に述べられている協働学習を前提とするならばCSCLやPBL(Project Based Learning)を用いるべきであろう。

【展望】発達過程の子どもたちに対するコミュニケーション設計は「タイドプール」の概念に基づいて、最初はクローズドなネットワークで身近な存在と、徐々に社会的な拡張を進めて、最終的にはパブリックに対する記事や論文・エッセー執筆を目標とするべきである。例えば、学校子どもブログ活動では小学校5~6年の児童が学校公式サイトに毎日記事を書く活動を通じて、記事を公表する責任感とスキルを学んでいる。

:重点施策の推進にあたって取り組むべき課題・留意点

教育情報化でもっとも益を受けるべきは子どもたちである

教育情報化では学校現場や教員サイドの都合が優先されるため、肝心の情報通信技術が子どもたちに行き届かないというジレンマに遭遇する。十数年来の正面突破の教育情報化が破綻したのは、教員サイドの理屈に振り回されすぎたからである。したがって、目標の大前提にまず子どもを置くという判断が必要である。デジタル教科書のように、まずは子どもサイドからの情報化を率先して進めるのが望ましいであろう。
 デジタルネイティブのための知的活動支援で述べたように、情報教育に関しても大人サイドの「教えたい内容」よりは、むしろ発達的視点で「子どもが学びたい内容」をつかみ取らせる手立てを考えるべきであろう。

持続性・自律性・広益性・突破性に留意すべきである

教育情報化における先駆的研究や実証実験の大半は、短期的・非持続的・外部依存的・場面限定的で、かつ、現制度の枠内での利活用を目的としたものである。しかしながら、これらの導入方法や研究のありかたが、十数年にわたる教育情報化政策の判断を誤らせてきたことは確かである。
新しい目標に基づいた新しい取組みはこれらを覆すものでなければならない。実験的な展開であっても、学校現場における持続的利用を前提としたデザインが必要である。

コンセプトワークには時間を十分かけるべきである

先に述べたように、従来の教育情報化の取組みには根本的な欠陥があり、知見や方法論をそのまま用いて事業を進めるのは危険である。これまでに抜け落ちた領域や分野についての知見を総合し、我が国ならではの強みを活かした政策に練り上げるには、相応の時間を要するものと考えたい。

以上

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