ICTに対する意識は世界最低
2016/12/6に発表されたOECD PISA2015の【ICT親和性項目】の分析・考察第8弾をお届けする。ICT親和性項目の内訳と本稿の内容は次の通り。
IC001 家庭の情報機器環境(利用するか否か)IC009 学校の情報機器環境(利用するか否か)IC002 初めてデジタルデバイスを使った年齢IC003 初めてコンピュータを使った年齢IC004 初めてネットアクセスした年齢IC005 平日学校でのネット利用時間IC006 平日校外でのネット利用時間IC007 週末校外でのネット利用時間IC008 校外の私的用途ICT利用頻度IC010 校外の学習用途ICT利用頻度IC011 学校でのICT利用頻度IC013~016 ICTに関する意識←今回はこれ
本稿では【IC013~016 ICTに関する意識】について取り上げる。
各項目の選択肢は(1強く反対、2反対、3賛成、4強く賛成)の4択である。IC013は【ICT興味関心尺度】IC014は【ICT能力認識尺度】IC015は【ICT利用自立性認識尺度】IC016は【ICTに関する社会的相互作用尺度】として設計されており、十分な尺度信頼性も確保されていることを確認した。これら4つのカテゴリは48国(地域)のデータが登録されている。
それぞれの尺度に関して、代表的な項目について検討しよう。
IC013【ICT興味関心尺度】は、ICTに対する生徒の興味関心を測るものだ。項目は次の通り。(因子分析で因子負荷量が高い項目、つまり代表的項目から順に並べてある)
インターネットで社会的つながりを持つことはとても有益だ |
デジタル機器を使うのが好きだ |
興味ある情報を入手するにはインターネットは素晴らしい情報源だ |
新しいデジタル機器やアプリを発見するのはワクワクする |
インターネットの接続がないと気分が悪い |
デジタル機器を使っていると時間を忘れてしまう |
尺度平均は 17.66 標準偏差は 3.43であった。
インターネットで社会的つながりを持つことはとても有益だ上位 アイルランド3.36 英国3.28 マカオ3.27全体平均 3.09 日本3.01(下から13番目)下位 リトアニア2.65 ロシア2.88 ハンガリー2.89
友達や知り合いがデジタル機器の事で困っていたら自分は助けることが出来る |
新しいデジタル機器について何か問題に直面しても自分で解決出来る |
友達や知り合いが新しいデジタル機器やアプリを買いたい時、自分は助言できる |
慣れていないデジタル機器でも快適に使える |
家でデジタル機器を使うのは快適だ |
尺度平均は 14.59、標準偏差は 3.12であった。
代表的な項目について詳細をみてみよう。
友達や知り合いがデジタル機器の事で困っていたら自分は助けることが出来る上位 ポルトガル3.09 英国3.09 ウルグアイ3.00全体平均 2.86下位 日本2.07 韓国2.38 中国2.61
48カ国でみると日本は圧倒的最下位。平均がネガティブに振れているのは日本と韓国のみであり、日本の生徒は約7割が「助けられない」と回答していることから、かなり特異な分布であることが分かる。
IC015【ICT利用自立性認識尺度】は、他人に頼らずICT利用する自立性を認識として測るものだ。項目は次の通り。
新しいソフトウェアが必要な時には自分自身でインストールする |
もしデジタル機器について問題があったら自分自身で解決し始める |
新しいアプリが必要な時には自分で選ぶ |
自分が使いたいようにデジタル機器を使う |
デジタル機器の情報は人に頼らず自分で読む |
尺度平均は 14.26 標準偏差は3.26であった。
代表的な項目について詳細をみてみよう。
新しいソフトウェアが必要な時には自分自身でインストールする上位 フィンランド3.13 中国3.02 フランス2.98全体平均 2.69 日本2.54(下から13番目)下位 韓国2.27 メキシコ2.29 コスタリカ2.30
全体平均は2.69であるのに対して日本の数値は2.56でやや下位にあたる。韓国は半数以上が自分でインストールしないと回答している。
IC016【ICTに関する社会的相互作用尺度】はICTに関する事柄について、他者とやりとりするか否かを測るものだ。項目は次の通り。
デジタル機器についての情報を友達と共有したい |
友達や知り合いと話し合うことでデジタルメディアについて多くを学んだ |
デジタル機器の問題解決はネットで他の人と情報交換したい |
新しいデジタル機器について何か学ぶ時、友達とその事について話したい |
友達と会ってコンピュータやビデオゲームで遊びたい |
尺度平均は 13.02 標準偏差は 3.46 であった。
代表的な項目について詳細をみてみよう。
デジタル機器についての情報を友達と共有したい上位 ドミニカ共和国2.93 タイ2.83 ポルトガル2.83全体平均 2.61下位 日本2.12 韓国2.24 チェコ2.41
48カ国でみると日本は最下位で、7割弱の生徒は友達と情報共有したくない、と答えている。友達付き合いの中ではデジタル機器についての情報は、避けられる傾向にあることがよく分かる。
4尺度の各国平均をプロットする
4カテゴリの尺度(合計点)を標準点化して各国平均を散布図にプロットしてみよう。
ICT興味関心尺度×ICT能力認識尺度が図5 、ICT利用自立性認識尺度×ICTに関する社会的相互作用尺度が図6である。
ちなみに各尺度の上位・下位は次の通り。
ICT興味関心尺度(標準点)
上位 ポルトガル .37 フランス .36 アイルランド .30
下位 日本 -.53 リトアニア -.41 韓国 -.36
ICT能力認識尺度(標準点)
上位 英国 .29 ポルトガル .38 スウェーデン .28
下位 日本 -1.04 韓国 -.58 中国 -.45
ICT利用自立性認識尺度(標準点)
上位 フランス .31 香港 .24 シンガポール .21
下位 韓国 -.38 日本 -.36 メキシコ -.35
ICT社会的相互作用尺度(標準点)
上位 ドミニカ共和国 .45 ポルトガル .35 タイ .28
下位 日本 -.64 韓国 -.55 オーストリア -.41
いずれも日本は最下位レベルであることが明らかだ。つまり、日本の15歳は世界的にみても、ICTに対する興味関心は低く、ICT操作能力もなく他人に頼らないと活用出来ないと認識しており、ICTに関して他人とやりとりするのは嫌なことだと思っている。これは日本のICT知的生産に対して大きな心理的マイナスを与えているだろう。
これらの結果をただ漫然とそうなってしまったと解釈するのは間違いだ。
日本と似た位置に韓国があることをよく考えるべきで、むしろ、良くも悪くもこれは積極的な教育介入による効果である。もっと自然な(教育側からアンコントロールな)状況でテクノロジーに適応された事例は他国の分布をみれば良い。
すなわち、日本においてICTに対する忌避的(慎重)かつ依存的な態度の刷り込みは社会的要請を受けたもので正当化されており、そうした大量の情報弱者を生むことを理想とした情報教育を推進しているわけだ。なんと素晴らしき新世界だろう(もちろん皮肉だけど)。