A君の日本型ICTモデル

A君のストーリーのベースになっているのが日本型学校ICT活用モデルです。

1.情報環境

【1.1提示装置】電子黒板・プロジェクタは仮設可動式の数台を全校で共有します。

【1.2学習者端末】10インチ型キーボード脱着型タブレットを40台一括導入したほか、リース切れの古いPCが数台特別教室と図書室に設置されています。導入に伴ってPC室が廃止されたので、充電カートに40台のタブレットを収納し、一般教室に搬入して授業します。

【1.3Wi-Fi】最大40台がアクセス可能なWi-Fi APはカートに付属しており、授業時だけ仮設接続します。

【1.4サイネージ】イベント時には電子黒板をサイネージのように使うことがありますが、普段の校内掲示にICTは用いていません。

【1.5個別IDとサービス】教員・児童生徒に学校付与の個別アドレスはなく、学習者のタブレットを利用するためには授業支援システムを用います。

2.運用仕様

【2.1機器運用】提示装置も学習者端末も仮設可動式で移動と準備・後始末が面倒なので滅多に使えません。

【2.2データ共有】高価な教師用デジタル教科書のデータはUSBメモリか共有ファイルサーバ経由で提示させます。

【2.3学習者利用】学習者側端末は主に一斉授業で用いますが、利用は抑制的で授業支援システムによる単純操作やドリル課題が許されるのみです。

【2.4告知・連絡】学校からの告知・連絡は印刷配布物・電話で行い、ホームページの更新は月1回。保護者対応を徹底させるためホームページにも印刷配布物データは掲載しません。メール一斉送信はアドレスの維持管理が不十分で日常的に利用出来ない状況が続いています。

【2.5機材持込と利用制限】児童生徒個人の携帯電話・スマホは持ち込み禁止で、生徒指導上の理由で所持規制や夜間利用の禁止を徹底しています。

3.展開上生じる課題

3.1 ICTの情報消費・受動的態度の強化

教員主導の一斉授業に適応するため、学習規律や忍耐は身に付きますが、ICTでは与えられた単純なタスクへの応答しか求められないので、大がかりな構成的な課題に取り組むことは困難です。タブレットの小さな画面に加えて、小型で華奢なコネクタは壊れやすく、基本的な操作にも支障が出ます。

学校側がICTを用いた知的生産に関わる付加価値を提供しないので、児童生徒が家庭で培っているICTスキルを学びに有効に活かす事が出来ず、もっぱらプライベートな情報消費と無批判な情報受容が強化されます。デマや不確かな情報の判別が出来ず、批判的思考力も育ちません。

3.2 デジタルギャップのストレスが顕著

ICTは一斉授業の枠組みの中で限定的に使われるため、一斉授業特有の落ちこぼれと吹きこぼれが生じる課題を本質的に解決出来ません。学習履歴を集めて効果的な指導をしようにも、利用機会が少なすぎて満足なデータが集まりません。

学校との連絡や教材・提出物がデジタル化されないので、保護者や学習者側に時間・手間・変換コストが要求されます。学校では大量の紙が浪費され、非効率が学校の知的生産効率を低下させます。

学校でのICT利用が限定的なので、家庭にネット環境のない児童生徒はICTスキルが身に付かぬまま、ICTに対する抑制的回避的な態度が刷り込まれ、情報弱者として格差が固定化します。保護者が子育てに無関心でICTスキルに疎い場合、利用リスクに対するケアが出来ないまま、生徒指導上の課題が生じやすくなります。

3.3 ほとんどの人がメリットを実感出来ない

学校側に明確な利用プランもないままトップダウンの導入が進められた結果、中途半端な環境と制限された運用仕様がICTで出来る事を大幅に狭めてしまいます。児童生徒は利用時間が短いため基礎的なICTスキルも身に付かず、個人間のスキル格差が著しくなります。

準備・運用に時間がかかるうえに、一斉授業の場面統制をする必要があるため、授業リスクと教員負担が高くなり、ICT利活用は一部の教員のみに偏るようになります。利用普及しないので対費用効果が低く、批判に対する説得力を失います。

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