ICT実証校のチェックポイント
ICT利活用を研究の主眼とする学校に訪れる機会は多い。ただし、僕はICTを活用した巧みな授業より学習者目線のICT日常化に興味があるので、他の参観者とは見ているところが根本的に違うらしい。
さて、実際にはどんなところをみているのか。次の11点にまとめてみた。
ポイント01:研究授業以外のクラスを見て回る。教室外の可動式電子黒板に埃が被ってる、教室の据置機材に電源が入ってない、児童生徒の机上に端末が置かれていない、はICT利活用が日常化していない証拠だ。
ポイント02:昇降口付近にサイネージの有無を確認。ICTが日常化している学校はサイネージに歓迎案内・学校紹介・交通機関の時間表等をロール表示している。サイネージがない、何も表示がない、のは校内で機材を有効に使いこなせていない。
ポイント03:校内掲示物・児童生徒作品の種類。掲示物量、文章モノの手書き率、グラフィック、新聞等レイアウト構成物のクオリティをチェック。ICT日常化の効果は学習成果や授業の外側ににじみ出てくるもの。
ポイント04:研究授業広報が載っている学校サイトの運用状況をみる。在校生保護者目線で欲しい情報が高頻度で提供されているか否かがポイント。有名な実証校でも、ウェブには外向けのイベント案内しか載っていないことがままある。
ポイント05:休み時間中の学級の状態をチェック。電子黒板に覆いがかかっていれば利用頻度は低い。児童生徒が自席でそれぞれ個別機材を使って何かしていれば(勉強とは限らない)ICTが日常化している証拠のひとつになる。
ポイント06:担任以外のICT支援員の動きに注目。具体的に何を支援しているかチェック。初歩的な操作ミスやトラブルで走り回っている場合、学級での利用頻度は低い。ICT利活用が日常化していれば、くだらない操作ミス・機器トラブルで授業がストップすることはまずない。
ポイント07:授業中の教員指示に注目。学習規律を強調する、機材使用の抑制時間が長い、逐次具体的に操作指示する、手続き的単純タスクしか与えない、はいずれも利用頻度の低さを示すもの。逆に、授業中の教員指示が操作については大雑把・抽象的だったり、データ読み込みや保存による持続的利用やレポート課題提出等を前提としている場合、総じて利用頻度は高い。
ポイント08:教員指示に対する児童生徒の反応多様性に注目(内容と手段両面)。抽象的指示にすれば児童生徒側の解釈・構造化・手段選択が各自で行われる。利用頻度が高ければ、画面に手書き・タイピング・ノートを撮影して貼付など、回答反応方法は様々になる。
ポイント09:児童生徒に求めるアウトプットのレベルに注目。単純Yes/No反応か、思いつきや情緒的表現か、それとも論理的批判か、要素構成的構造的表現か。ICT日常化で扱う情報量や種類が増えれば、アウトプットもより複雑で構成的なものが求められる。
ポイント10:教員の提示装置提示内容・児童生徒への配布物に注目。提示は教室後部でも視認可能か、データ配布回収すれば済むものをわざわざプリントで配っていないか。ICTが日常化していない机の上は紙教材・多くのプリント・機材などで雑然として隙間がない。
ポイント11:メッセージング・データ流通のためのクラウドサービス利用に注目。ICTが日常化した教室では、資料の事前配付や授業の作業指示、提出宿題の集約、課題の持ち帰り、といった用途でメールやSNSが活躍する。授業内コントロールに特化した授業支援システムはむしろ非日常の象徴だ。
「ICT利活用の授業が巧みであれば、実証校はショーケースでいいじゃないか」という意見もあるが、僕に言わせれば、ICT利活用が日常化していない無理無理な実践には真似する価値がない。そんなものを持ち帰っても普及のモデルにはなり得ない(それはこの20年来の歴史が証明している通りだ)。
例えば、ポイント07のような、研究授業としてはビシっとしない教員指示で何故上手くいくのだろう?と参観者に疑問に思わせるほうが望ましい。
実は、ICT利活用の教育効果とは、その場の【教員の巧みな授業指導】ではなく、【持続的利用環境と操作習熟を通じて中長期で高められる】もので、学習者が各自【的確な手段と情報を取捨選択し、高い作業効率を得る】ことで、【より多くの複雑で構成的なアウトプットを生成する】ことにあるからだ。