学習者も常時使う文具へ

スウェーデンの小学校での様子。低学年の子どもはタブレットが中心だが、中学年以降はキーボード付きを扱う機会の方が多い。

前記事では、ICTの日常化について概略を述べた。本稿は具体的な活用パターンに踏み込んで解説する。

学校をデジタルシフトする

先に用語解説で述べている通り、個人が情報端末携行することで単位時間当たりの扱い情報量は数倍になる(デジタルシフト)。スマホやタブレットが自由に使える日常生活はすでにデジタルシフト後の世界である。

しかし、日本の学校は教員主導のICT利活用にこだわりすぎた裏返しとして、学校での普及はほとんど進まず、日常生活と学校との間のデジタルデバイドが深刻さを増している(諸外国と比べても20数年分のギャップがある)。だから、学校をデジタルシフトするのは、特別な授業を仕立てて未来的で新しい何かを求めるというより、むしろ、日常生活と学校とのデバイドを埋める後向きの発想だ。すなわち、【日常ICT利用のあり方を学校へ拡張する】考え方である。

3つのキーコンセプト

【日常ICT利用のあり方を学校へ拡張する】考えは、次の3つのキーコンセプトで導くことが出来る。

  1. 授業内短時間から生活全般へ
    ICT利活用の教員研修では「ICTは授業目的と効果をよく吟味してピンポイントで使え」が定石だが、デジタルシフトの原則から考えれば、これは明らかな誤りである。ICTには試薬的魔法的な効果はない。利用頻度に伴って情報量が数倍にならないと効果は生まれない。したがって、授業内に留まらず生活全般での常用スタイルを出発点にしなければならない。
    加えて言えば、特定授業目的への合致や教育効果の絞り込みといったミクロな議論よりも、日常生活における学びとICTをどうつなぐのか、というデザイン思考が必要だ。
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  2. 教員主導から学習者中心へ(教具から文具へ)
    24時間教員主導は非現実的なので、ICT利活用が生活全般に広がるということは、教員の手取り足取り指導を諦めて学習者の自律性に委ねることになる。これをはき違えると、子どもの生活全般を学校的文脈で管理する、というディストピアSF小説真っ青の話になりかねない。
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  3. 一斉授業から多様な学びへ
    教員主導のICT利活用は、基本的に一斉授業形態で知識技能習得を目的として行われてきた(話し合いとか教え合いとか言っても、結局一斉授業の中の1活動に過ぎない)。生活全般×学習者中心では持続的な利用時間が長くなるので、ICT利活用パターンはより多様なものとなる。

日常化における活用分類

現状の学校ICT利活用議論が貧しくなりがちなのは、そもそも学校でほとんど利用機会がないので、学びのシーンが想像しにくい、という理由がある。脱教具論でフォーカスするのは次の5つ。

学習者中心の利用形態が広まることで、文具的な活用シーンが増える

 

  1. 分かる授業
    従来型の一斉授業・教員主導で知識・技能習得をもっぱら目的とした展開で、大型提示装置とデジタル教科書等のコンテンツを必要とする。
    学習者中心の授業展開でも教員主導の【分かる授業】自体が消滅する訳ではないが、全体からみた割合はごく一部になる。1授業に5分×数回程度のピンポイントなミニレクチャーの形に変化するだろう。
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  2. 学習の基盤となる資質・能力
    この用語は新指導要領に記されており、括弧書きで言語能力・情報活用能力等とある。学習者がICTを常用すれば、基本的機器操作やキーボード入力のスピードに加え、比較的長文の論理的文章構成や高度な表象・イメージの操作スキルが求められる。これらはもともと日常生活文脈にはなく、むしろ、学校での学習活動で求められるものである。学習の基盤となる資質・能力が高くなれば、学習成果としてのアウトプットのレベルも高くなるだろう。
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  3. 学びの個別化
    現状は、一斉授業の補完として予習(反転学習)復習(ドリル問題)として扱われる事が多いが、個人の理解度や特性にあわせて学習プロセスを調節する【アダプティブ・ラーニング(適応学習)】が、学びの個別化の本質である。
    特に基礎的な【知識・技能の習得】では、学校授業が学びの個別化に対応することで一斉授業の進度がなくなり、落ちこぼれも吹きこぼれも生じない。単元や学年の縛りを取り払う無学年制への移行も考えられる。一概には言えないが、一斉授業の50~70%程度で学習が成立する、といわれている。20世紀初頭のドルトンプランや愛知県東浦町立緒川小の個性化教育に見られるように個別化の歴史は古い。個別化に伴う教員負担をICTが担うことで現実的選択肢となり得たのである。
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  4. 知的生産活動
    学習指導要領では【思考力・判断力・表現力等の育成】で扱う活動的な単元でICTを活用する。基本的には、学習者自身が筋書きを作るレポート課題だったり、プロジェクトだったりするので、2.に含まれる論理的文章構成や表象・イメージの操作スキルに加えて、【学びの協働化】つまり、オンライン・オフラインでの協働作業やコメント付与と、【学びの社会化】つまり、ブログ化・電子書籍化・ポスターや発表プレゼンテーション作成といった成果とりまとめが、主な使い方になる。いずれも授業時間内に短時間で行う、というよりは、数時間かけてじっくりと作り込むようなスタイルだ。
    ちなみに、海外では教員それぞれが教材提示のウェブサイトを持っていたり、あるいは、児童生徒の学習成果を学校サイトで公開したり、児童生徒双方にコメントを入れさせたり、といった学習活動が組まれているのをよく見るが、日本国内ではまず見ることがない。
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  5. 日常利用
    もっぱら授業内の教育効果にフォーカスしている人にとっては、なぜ【日常利用】が含まれるのか理解出来ないかもしれない。
    日常利用とは、授業内外の教員・学習者・保護者間の連絡・通知・宿題提出を積極的にオンライン化するものだ。学びのデジタルシフトは、学びに関わる情報流通を数倍にすることにこそ価値があるので、これまでは紙媒体に頼っていたコミュニケーションの大半をデジタルに置き換えて小回りの効くものにする。
    例えば、3.【学びの個別化】での学習進捗・採点・フィードバックは担任・学習者・保護者がいつでも確認可能なものに出来るし(もちろん学習者がそれを認めれば)、4.【知的生産活動】でメンバーからレポートについてのコメントが入ればメールでアラートが届くし、オンラインでドキュメントをシェアしておけば、書き込みがあるたびに教えてくれる。このような使い勝手の良さは、日常利用のプラットフォームがないと十分に機能しない。

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