ネットで過去問集めて傾向分析?!

前記事からのつづき)教育情報化の目標はICTの技術的革新性をテコにして、教育のモデル自体を刷新することにあるので、デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)と言い換えてもよいが、日本の学校の現状はまだまだトランスフォーメーションが議論出来る段階にさえ達していない。当面はデジタルシフト、つまりSAMRモデルの【A増強】を目指すべきという話を書いた。

先日、2018/3/23研究会の「国語表現とICT」や、Twitterで流れてきた以下の記事が刺激になって、ひとつSAMRモデルに出来そうな事例を思いついたので、メモしておこう。

「ネットがない頃ってどうやって勉強してたの?」 女子高生が語る、今どきのテスト勉強法 [中山順司,ねとらぼ]
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1803/21/news005.html

この記事のJK発言のポイントをざっとまとめると、こんなところだろうか。

  • 用途に合わせて学習材(動画・紙面)や方法をチョイスしている
  • 学校の授業は独り占め出来ないし、不明点もいちいち確認出来ない
  • 題材から試験問題を検索して事前に出題傾向を知る
  • 用語の定義をさっと検索して確認する
  • じっくり理解しながら解く系の問題はLINE通話で友達と教え合う

見事だ。「スマホは勉強と関係ない」とか言ってる教員の横面をひっぱたくくらいのインパクトがある。最近流行りの動画コンテンツが授業の置き換えになり得る話は想定内だったけれど、3点目の【試験問題を検索して出題傾向を知る】までくると、授業だけでなく、試験まで相対化されているのだなと実感する。JK本人は「あまり褒められたことではないと分かっているけれど」と言っているけれど、出題傾向を読んで裏をかくというのは、かなりの頭の体操になるはずだ。

SAMRモデルと「走れメロス」

ちょうどよいので、「走れメロス」試験問題を使ったいろいろにSAMRモデルを当てはめてみよう。

SAMRモデルとデジタルシフトの実例

教育支援産業の動画コンテンツや問題をタブレットに配信して勉強させるのは、これまでの授業+家庭学習パターンと変わらないので【S代替】レベルだ。学習者側で学習のプロセスをマネジ出来ないので、基本やらされ課題である。

上の記事で出てくる例は、複数の試験問題を集めて相対化する=情報量をX倍にする部分で【A増強】が該当し、問題をいくつも並べて比較することで出題傾向が分かる、という時点で従来の国語課題とは違う【M変容】にさしかかっていることが分かる。これらが教員側指示でなく、学習者側で創意工夫されているというのもポイントだ。

仮にこの方向を強化すると【R再定義】では、授業中に学習者が試験問題を作り、解法解説を書き、相互批評する事を通じて、単元の本質的な問いを見出す筋書きになるだろう。つまり、【R再定義】のタスクの再定義とは、教科書の指導書にあるような背景を暴露することでもあり、一方的な教授・学習関係を崩すということでもある。

上位だからといってハイテクは必要ない

もうひとつ重要なのは、【S代替】から【R再定義】へ上位にシフトしても、必ずしもICTには高度なモノが必要な訳ではない、ということだ。テクニカルな要素として必要なのは、

  • S代替:学習者1人1台環境と授業中に教材配信・解答回収の授業支援システム
  • A増強:学習者側端末(機種機材を問わない)とEvernote等のクリッピング・ノート・サービス
  • M変容:学習者側端末とクラウドサービス(ファイル・分類タグ共有)
  • R再定義:学習者側端末とクラウドサービス(ファイル・フォーム共有)

特に【A増強】から【R再定義】の活動に必要なツールは、すでに日常に提供されているモノ(汎用の情報端末やクラウドサービス)ばかりである。むしろ、教室で教員が思い通りに生徒をコントロールしようとするほど、ICTにはカスタムな仕様が付加される傾向が強い(だから【S代替】レベルで止まっちゃうパターンが多いのだが)。

中高では、カタログスペックだけで授業のあれこれにすぐ使えそうな【S代替】機能満載のサービスを契約して、一方で授業にはそのまま手をつけず、あとは家庭でタブレットで予習復習よろしく、というパターンが多そうだが、安直お手軽レベルで生徒を見くびっていると、返り討ちに遭うのは時間の問題だ。

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