学校選定機種どうする問題

 これ、わりと根深い問題なので書いておこうか。回答側が、教員か児童か生徒かで、傾向もかなり変わってくるはず。ちなみに、僕は最初から好きな機材持ってくれば良いじゃんBYOD派なので、正直どれ選んでも構わないと思ってるけれど、学校で選ぶとなると、いろいろしがらみがあって面倒。

BETT2020の会場にて、子ども達が見学に来るのも当たり前

利用実態のない人気投票はあてにならない

 海外の話を先にしておくと、5年くらい前だと、小学校低学年はiPad、それ以降はキーボード付ノートPCで棲み分けされていたが、最近は、小1から別にChromebookでいいんじゃないか、という声が強い中高でもiPadを積極的に選択するのは日本くらいだ。
 ここで終わると単なる出羽守話でイヤミなだけなので、選ばれる理由背景は何なのか? もう少し掘り下げてみよう。

 まず、PISAのICT調査でも明らかなように、日本の学校のICT利活用は壊滅的で、10年以上停滞したまま諸外国から大きく引き離されている。つまり、一般教員にアンケートすれば、海外では普通に使ってる教員の話だけど、日本の大半は使っていない教員の話だ。言い方はキツくなるけれど、利用実態のない人気投票と同じ。

 「いやいや俺は使ってるぞ」という人も、日本の学校でシステマティックに上手く1人1台を運用しているケースは稀なので、クラウド含め、本領発揮の条件を満たすのはかなり困難。だから、日本の教員回答は「使った上でこれがいい」という客観判断というより、「なんか面白い事に使えそう」的期待値と見るべきだろう。

 例えば、GIGAスクールの標準仕様に載っている3OS(Windows/iOS/ChromeOS)は、それぞれ出来る事や機材管理運用コストが違う。中でも決定的なのは、ハードウェアUIの違い。ICTで構造的文章が作れるようになり、圧倒的記述量が増えるのはかなり重要なメリットで、海外ではオンラインのレポート課題が多いから、必然的にキーボード付が選択されるというロジックだ。

 でも、日本の学校はそもそも授業でICTを使ってないし、普段から長い文章を書かせないので、キーボードの重要性は低い。 タブレットで写真撮ったり、手書きで書いた意見を電子黒板に集約したり的なふわっとした新しさには目は惹かれても、それでゴリゴリ授業を組み立てる観点も現状では持ちにくい。
  私立中高で多いけど、流行りでひとまず機材入れてみたものの、結局授業で使えず文鎮化するのは、これが理由。嫌いな人はICTなんか所詮道具とか言うけど、道具にも授業スタイルとのマッチングがある。問われた時に、そこまで想像力が働く相手じゃないとアンケートしても無駄ということだ。

子どもの情報生活にどう位置付くか

 で、もう一方の子ども側の話。学校選定機種の話になると、大人はもっぱら与える機材の事しか考えないが、子ども側から見れば、日常生活で使う私有のタブレット・PC・ゲーム機・スマホのほかに、新たに学校指定機材が割り込むわけだ。この子どもの情報生活的観点がとても大切

 僕は小学校低学年に関しては、タブレットでもいいんじゃないか、と思ってる。何故かというとそれがMy First Computerになる可能性が高いから。キーボード以外の要素として音声・画像・動画に親しむには悪くない選択肢だ。ただ、中高生となれば違う。

 PISA結果をみても、日本の生徒は家庭PCは使わないが、中高生のスマホ所持率は80%以上になるから、必然的に学校機材はスマホとの棲み分けになる。その時に積極的に選ばれるのは、タブレットか、それともキーボード付PCか?を考えなければいけない。

 例えば、利用シーンごとに3デバイス選択肢の◯✕△付けると、スマホとタブレットはほぼ同機能で、小さなスマホには機動力がある、となれば、文字入力が速いPCの存在感が増す。
 仮にBYODでマルチデバイス環境(後述)を想定すれば、録音・撮影・ちょっとした調べ物はスマホで、文字や編集はPCで、コンテンツ消費は両方で、という選択になる。タブレットはスマホと被るので出番が限られる。

校内用途だけで考えてはいけない

「いやいや、学校の文具なんだから、スマホ持ち込みは禁止でしょ」とか言い出すと選択が歪になる。校内で唯一使えるICTでオールインワンを想定すればタブレットになるけど、家に帰ったら学校課題以外使わない【お勉強マシン】に仕立てたい? それは子どもの情報生活全般から考えたら、邪魔なお荷物になってしまう。それではつまらない。

「BYODとかマルチデバイスとか、学校要件的に無理」とか意見が出て来そうなので先に言っておくと、今どき、PCでもタブレットでも、ありとあらゆる情報機器は、基本的にネットワークとクラウド前提の情報エコシステムに乗っている。PCだけあれば動く20年前の世界とは全然違う。
 つまり、いずれのデバイスを扱えば、自然にクラウドに情報を蓄積し、他のデバイスと適宜融通するモデルになる。これが一番強力な使い方だし、教育的にも子どもの情報生活や情報空間をどう有意義に構成し高度にするのか、という視点は大切なはず(今の情報活用能力にはないけどね)。

「子どもの情報生活なんてどうでもいい、問われてるのは学校授業の使い方なんだ」的なクローズな思考をするとドツボに嵌り、授業支援用の管理統制システムとか、授業コンテンツとか凝って究極つまんない【お勉強マシン】になりますのでね。積極的に機材を文鎮化させたいなら、どうぞ。私は止めません。

 さて、クラウド前提でデバイス運用すれば、子どもはプライベートのIDと学校のIDの両方を用途で切り替えて使う事になる。これは大人と一緒。 当初は学校機材のみで運用するつもりでも、いずれはスマホ・共有PCや家庭機材も含めてクラウド運用することが、最も合理的で効果的であることに気付くはず。

 だから、BYODやマルチデバイスは遠い未来の話じゃなくて、今ここにある前提なのです。長くなったので、もう一回繰り返すと、①学校の機材選定は子どもの情報生活全般から位置付けを考えよう。②圧倒的記述量増加はICT活用の重要メリットだけど、学校がそれを取るか捨てるかも機材選定に関わるよ、という話でした。

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