休校要請にICTで対応する #1

安倍晋三首相は27日、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、全国すべての小中高校と特別支援学校について、3月2日から春休みに入るまで臨時休校するよう要請した。

朝日新聞 2020/2/27 https://twitter.com/asahi/status/1232968125030625280?s=20

 2/27に突如発表された全国小中高・特別支援学校の休校要請。登校不可の状況でICTを活用することで、学校教育の機能をどのように持続可能にするのか、ICTの優位性とは何か、現実的な解決方法を考えてみよう。なお、本稿は前記事「学習手段の冗長化」を組み直し加筆したものである。

休校対応の何が課題か?

 休校に伴う問題をざっと書き出してみると、次のような点が指摘出来る。

年度末の積み残しがある

 今回の休校措置が通常の長期休みと違うのは、年度末の様々な積み残しがあること。授業カリキュラムは言うに及ばず、学年末試験、単位認定、入学試験、進級・進学に関する事柄や各種行事等の対応が必要。刻々と変化する状況にあわせて、スケジュールや方法も柔軟に対応しなければならない。

集団・対面原則のシステムが機能しない

 登校不可の状況では、学級・学年・全校単位の集団対応が出来ない。具体的には一斉授業、集会、口頭伝達、物品や文書・資料の手渡し配布、対面の相互作用(質疑応答、話し合い、雑談、対話など)機会が失われる。代替手段は、紙媒体・電話・学校サイト・緊急告知メールなどに限られる。

自学自習の問題

 長期休校に対応するため、大量の学習プリントを宿題として印刷配布するのは、誰でも考えることだが、一度手渡したプリント類は回収するまで教員の制御やチェックが及ばないので、ため込んで最後に突貫徹夜作業になってしまう、俗にいう「夏休み絵日記の悲劇」が起きやすくなる。
 タスクにしやすいドリル・ワークシート学習は基礎反復が多く、学習意欲が低下しやすい。一方、探究や創造的活動は、児童生徒自身の構想・段取りの力に依存するので、結果にもバラツキが生じやすい。

フィードバック機会の不足

 年齢・発達段階にもよるが、質の高い学習を成立させるには、監督者からの適切なフィードバックが重要。通常の学校での対面学習場面では、様々なフィードバックの機会がある(それでも十分かといわれれば、大いに疑問が残る)が、登校不可の状況ではそれが出来ず、休み後にまとめてチェックするくらいしか手段がない。学習の品質保証という観点からすれば、かなり問題がある。

ICTで何をするか

 さて、ここでICT活用して何をするかが大問題。Edtech界隈の人達はいきなり授業をオンライン化することを想像しがちだが、ここでは、あえて「本丸の授業は最後に攻略するもの、最初は外堀を埋めること」を主張したい。まずは手堅い問題解決が出来ないと、のちに大きな果実を得る事は出来ない。理由は次の通り、

一斉授業の再現は授業者がしんどい

 ICT利活用で一番分かりやすいのは遠隔授業だ。ただし一斉授業は普段の対面だからこなせることで、遠隔授業の形態では、授業者にかかる負担が大きい。
 たとえば、Zoomなどのビデオ会議サービスを使って40人の一斉授業を展開することを想定すれば、授業者は講義・資料提示・質疑応答から学習者制御まで、全部一人でやらねばならない。
 講演をこの人数でやろうとすれば、司会者(コーディネータ)やオペレータを加えて複数人でないと引っ張れない。こうした授業を1日中やろうとしても長続きしない。

長時間の授業視聴は学習者がしんどい

 YouTube等で提供される講義動画が軒並み3~10分程度なのは、視聴者は長時間見続けるのが困難だから。実は、普段我々が視聴するTV番組や動画は、情報量や刺激が圧倒的に多い。授業風景をただ録画配信しても、視聴者はすぐに退屈になってしまう。一方的なライブ中継では、学習者側がザッピングや早送り再生など、好き勝手操作出来ないというデメリットもある。

学習材自体はたくさんある

 小中高に関して言えば、学習指導要領準拠であれば、教科書・副読本以外にも巷には学習材が溢れかえっている(いわゆる学習機会の遍在化)。授業者は自分の授業シナリオと教材にこだわるが、現実には代替が容易に得られる(コモディティ化している)ので、情報的な稀少価値はそれほど高くない。学習者の学習活動全てを教員がコントロールすべき、という考えは、意気込みとしては良いかもしれないが、とても現実的とは言えない。

何にせよ丸投げはよくない

 昨今の教育ICTは個別最適化が流行りだから、無料キャンペーンに乗っかって外部サービスを使ってしまえ、という発想にも待ったをかけたい。教材丸投げでやらせるだけなら、大量の学習プリント印刷配布と何ら変わらない。挙げ句の果てに「先生いらないじゃん」と言われたらおしまいである。

迅速かつ柔軟な連絡配付手段・双方向性が足りない

 先で述べた外堀とは、今の学校に絶対的に不足しているものを指す。普段の学校は対面に依存しすぎているので、対面に頼らない代替手段が貧弱だ。特に足りないのは、迅速かつ柔軟な連絡・資料配付手段と、児童生徒・保護者との双方向性である

 印刷物は配送手段がない、郵送では日数とコストがかかる、という意味で選択肢から外れる。電話は学校回線キャパシティの問題がある。朝や夕方は普段からつながらない。電話は相手の時間を奪う。校内に散らばっている教員をいちいち呼び出してもらうのも大変だ。本当の緊急時のために開けておくという配慮も必要だろう。

ICT適用領域からまとめると

教具から文具へICT活用の適用範囲の変化(豊福 2019)

 知識整理のために、上図ICT活用の適用範囲と紐付けてまとめてみよう。

  • 一斉授業の再現は①分かる授業に該当するが、大人数では授業者に負担になり、授業動画をそのまま配信しても、学習者にとって長時間視聴は現実的でない。
  • ①授業動画配信や③大量の学習プリント(宿題)や個別最適化のEdtech教材は多様な代替があるので、情報的な希少価値は高くない。
  • 学習プロセスをすべて教員がコントロールするという考えは現実的でない。一方、課題丸投げにすれば、教員が学習に関わる理由がなくなってしまう。
  • 探究や創造的活動は②知的生産活動に該当するが、児童生徒自身の構想・段取りの力に依存するので、結果にはバラツキが生じやすい。
  • 期せずして教員主導の一斉授業から、学習者中心の自学自習に転換せざるを得ない状況で、現状最も足りていないのは、授業そのものよりも、⑤に該当する迅速かつ柔軟な連絡・資料配付手段と、児童生徒・保護者との双方向性である。

#2では、ICTを使った具体例についてまとめてみたい。

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