#4 オンラインに何を求めるのか

休校措置の続く状況でマスコミが煽るのは一部学校で先行する【オンライン授業】。その要請は日増しに強まり、各地で保護者の署名活動が起こっているほど。ただ、実は識者の間でもオンライン授業の定義はバラバラなうえ、テレビ会議を使った遠隔授業や授業動画制作に素人教員を動員するような無理な展開も見られる始末。
長期の予期せぬ休校に際して、多くの人々が漠然と期待するのは、対面教室授業をオンラインで再現することですが、オンラインには様々な制約や特性があるので、簡単ではありません。その目的・機能・条件について考えてみましょう。

教室授業の機能とは何か

「デジタル・シフトは単位時間あたりの扱い情報量が数百倍になること」なので、テクノロジーは使用者の欲望を増幅させる特性があります。教室授業をオンラインに移そうとすれば、授業者の意図はより明確になります。
では、教室授業の機能とはどのようなものでしょうか?18世紀の教育学者ヘルバルトが著書「一般教育学」で述べた3つの教育方法を用いて明らかにします。

表1 教室授業の3つの機能

管理

ヘルバルトの【管理】は、生徒の欲望を統制し教室に秩序を実現します。

・拘束:授業時間中は教室内に身柄を拘束します。
・監視:教員指示から逸脱しないように、児童生徒を様々な手段で見張ります。
・規律:児童生徒に学習時のルールを事細かに提示しします。
・統制:児童生徒が教員の指示通り一斉に振る舞う事を求めます。
・進捗制御:教員が授業の進度を与えます。

【管理】は学習者の好き勝手を抑制して、教室内で学習に向かわせる条件を整えます。オンラインでの管理機能は、ビデオ会議システムや各種データ収集システムを用いて、時間を決めて参集させたり、学習者側の状況を持続的に計測・記録・評価します。例えば、

定時にビデオ会議で集会を行い、乱れがちな生活リズムを整えます。
・平時の時間割で学習者を時間拘束し、ビデオ会議を用い学習態度を監視します。
オンタイムで点呼や出席確認を行ったり、授業参加時に制服着用を求めます。
脳波等の計測器具を装着させ、授業集中度を計測評価します

学習者の生活環境は多様なので、オンライン条件下では教室のような強制力は及びません。長時間の拘束は同居家族の生活にも影響を与えます(個室のない児童生徒もいます)。過剰監視(デジタル・パノプティコン)は、学習者に精神的な苦痛を与えますが、同時に強制に対抗するチート(抜け駆け)も増えます。

働きかけ(訓練)

ヘルバルトの働きかけ【訓練】は、生徒の心情に訴えて意志を形成します。

・動機づけ:学習への前向きな姿勢を促します。
・助言:学級単位では十分行えない個別のアドバイスを行います。
・学習評価:学習指針や進捗に対する正誤判断や要約、情緒的な受容を行います。

【働きかけ】は「学習者の心情に訴える」とあるので、道徳などを想定する解説もあるのですが、幅広には教員・学習者間のコミュニケーションと捉える事が出来ます。
休校条件では、同居者以外とのやりとりが不足して精神的な不調を抱えやすいので、個別のコミュニケーションや情緒的なケアが必要です。オンラインでの働きかけは、メールなどの連絡応答手段やクラウド型LMS(Google Classroomなど)の課題添削を通じて行います。例えば

・授業のグループワーク中に他の生徒の邪魔にならないように、チャット(ショートメッセージ)を用いて教員・生徒間で相談します。
・個別の課題提出にアドバイスコメントを付けて返却します。
・ビデオ会議で誰でも打合せ可能なオフィスタイムを設け、教員はその間接続待機をします。
・公式ID(学校メールアドレス)を用いて、メールで進学や生活についての相談をします。

働きかけを行う人は担当教員に限りません。他教員、スクールカウンセラー、管理職など立場の異なる大人、あるいは、児童生徒相互のやりとりも考えられますし、個人間に限らず、グループの場合もあります。これを可能にするか否かは、連絡応答手段の設計運用次第です。働きかけの過剰は、個々人のプライベートな領域へ介入するリスクや公私混同につながります。

教授

ヘルバルトの【教授】は知識を伝達し習得させます。

・情報伝達:習得させるべき知識スキルを与え、学習者に獲得・定着させます。
・活動指示:学習活動の背景文脈・活動指針・手続き方法を与え、学習者の活動を促します。

普通に考えて【教授】は授業の中心要素ですが、ヘルバルトが最後の要素として述べているところは多分に示唆的です。教育リソースが貧しかった19世紀は、教室に多くの学習者を集めて教える一斉授業が最も効率的な方法でした。
オンライン条件での教授とは、ビデオ会議を用いた遠隔授業や動画配信に限りません。応用発展的な単元では、課題や活動指示を与えて個別もしくは協働学習をコーディネートすることが含まれます。

・板書と語りの授業をそのまま録画して動画配信します。
・ビデオ会議を用いて、教室授業の様子をリアルタイムで配信します。
・教科書・副読本・ドリル教材等教材媒体を授業前に学習者に届けます。
・クラウド型LMSを用いて、資料ワークシートの配布や課題割り付けを行い、学習活動の段取りを示します。

情報伝達には主に3つ難点があります。① 受け身の長時間動画視聴は学習者の注意力維持が困難です。② 動画のクオリティはかかる制作コスト(時間と手間)でほぼ決まるので、フルタイムの動画配信や遠隔授業では教員側の負担も大きくなります。③ 標準的な学習材は授業外でも幅広く入手可能なので、自作教材の希少価値はほぼありません。
現実的には、既存の学習材に頼る部分と、授業者側が学習活動を促す際の背景・文脈部分とは、切り離して構成することが求められます。

圧倒的に学習者視点が足りない

総じて言うと、休校措置にあたって2020年5月時点の対応状況は、もっぱら外向けの学習継続ポーズや、授業時数消化のための学校都合のもので、学習者視点が圧倒的に足りていない事は指摘されるべきところでしょう。具体的には、

  • 教室空間への身体的拘束がないこと、時間配分からも自由であることが学習活動の設計においてポジティブに活かされていない。
    むしろ、学校の生活パターンを無理矢理家庭に拡張する発想がオンラインでの過剰で無意味な管理を助長しているか、または、取り得る手段が全くなくお手上げで完全放任状態か、の二極化を招いている。
  • 長時間の時間拘束、受け身の授業参加による学習者の疲労やストレスに対するケアがおそろかになっている懸念がある。
  • 一斉授業再現のため、分かりやすい遠隔授業や動画配信に注目が偏っており、むしろ、学習者目線での「学習の保障」全般をICT環境も含めてどう提供するか、という視点が希薄である。
  • 急な対応とはいえ、家庭における生活学習環境や情報機器環境が十分に勘案されていない。

オンラインに求める機能と実際のICTとのマッチングについては次回述べたいと思います。

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