#2 まず必要なのは公式IDの付与

教育情報化は城攻めと同じ。天守閣はもちろん授業ですが、十分な備えもなく、いきなり天守閣は狙えません。遠隔授業だ、ストリーミング配信だ、と右往左往するより、着実に外堀・内堀を埋める事から考えましょう。

特に、今はコロナウィルス対策で学校機能が実質停止しているなか、悠長に事を構えている余裕はないのですが、あえて逆説的に主張すると、情報化が遅れている小中高が何より先にすべき事は、児童生徒・保護者・教員全員に公式(クラウド)IDを付与する事です。

フィンランド・カウニアイネンの中学校にて。アングリーバードで知られるRovioがプログラミング教育に協力している。

公式(クラウド)IDとは何か

公式(クラウド)IDとは、学校に所属する児童生徒・教職員個人を識別するために用いられます。具体的には name_XXX@school.city.ed.jp のようなメールのアドレス表記を個々人に割当てることを指します。

公式(クラウド)IDの機能には、具体的に次のようなものがあります。

  1. 学校公式のメールアドレス
  2. 情報端末(GIGAスクール構想等)と個人利用者との紐付け・機材管理
  3. 学校公式のクラウドサービス(G Suite・MS Office365等)の利用認証
  4. 学校公式の学習サービス(まなびポケット等)の利用認証

つまり、公式(クラウド)IDとはネットワーク上のありとあらゆるサービスを学校に所属する個人として利用可能にするパスポートと言えるでしょう。詳しくは、林向達先生の解説をご覧ください。ちなみに、公式IDならどんなサービスでもOKかというとそんなことはなくて、1~4全てを満たす選択肢(事業者)は実質2つしかありません。

なぜ公式ID付与が必要なのか

最初に、公式(クラウド)IDを付与する理由は、主につぎの4つです。

  1. 私用と公式を明確に切り分ける
  2. 関係者間の迅速確実な連絡応答手段を確保する
  3. ネット環境があればどこでも自分の情報が呼び出せる
  4. これらによって持続的な学習基盤を形成・保証する

その1:私用と公式を切り分ける

スマホの利用者であれば、意識せずに複数の私用クラウドIDを所有しているはずです。
例えば、iPhone/iPad等で用いるApple ID、Android携帯やGoogleクラウドサービスを利用するためのGoogleアカウント、Windows PCやOfficeを利用するためのMicrosoftアカウントがあります。

学校以外の組織では、仕事に用いる組織公式ID(メールアドレス)を個人に付与するのが普通です(小中学校は未だに代表メールのみが大半です。個人にID付与されていても対外的なやりとりには使えない所が多いでしょう)。
組織の公式IDと私用IDとを使い分ける積極的な理由は、公私混同を避けるためです。私の場合、仕事のやりとりには研究所のアドレス toyofuku@glocom.ac.jp を公表していますが、私用でやりとりするアドレスは公表していません。こうして使い分けをすることで、例えば、オフィスタイム以外には応答しないとか、扱う内容や言葉遣いにも切り分けが出来ます。

子どもや保護者が学校公式IDを使う場合も同じです。学校公式IDは学校名を冠しているので、プライベートな内容を扱うべきではありませんし、学校のルールに従った行動様式が求められるということです。こうしたことで、利用者の公私混同やトラブル(●●村八分とか)の抑制になります。

その2:迅速確実な連絡応答手段の確保

突然の休校措置で早くも1ヶ月以上、止むにやまれぬ対応とはいえ、子どもも保護者も学校に対する不信やストレスが高まり、この1週間ほどは批判記事も多く目にします。対面と紙媒体手渡しに依存しすぎた日本の学校は、登校不可状況での連絡代替手段に乏しく、事実上の機能停止に追い込まれているからです。

現状の日本の学校の情報環境は、もっぱら授業内の用途のみ想定されており、児童生徒には公式IDが割り振られていないので、このたびのコロナウィルス対策で必要とされているような、授業外でのメッセージやりとりなどにはいっさい使えません。代替手段といえば、山のような紙の束、感染リスクの高い登校日や家庭訪問、クイックとは言いがたい郵送や電話連絡程度しかありません。

休校が長期化すれば、保護者や児童生徒のストレスはもっと高くなり、一方で、学習面ではほぼ放置された状態が続けば、動機づけも学力保証もままならない。これはすでに差し迫った課題です。

公式ID付与でクラウドを活用すれば、これまでの対面・紙依存を脱却し、迅速な連絡手段(具体的にはメール・メッセンジャ・音声/ビデオ通話等)が確保可能です、しかも、公式IDの取得に関しては、GoogleMicrosoftも無償で明日にでもスタート出来ます。
全国の自治体教育委員会において、今まさに検討・推進すべきは、この公式IDの付与なのです。

その3:どの機器からでも利用可能

「とは言っても機器整備もないのに…」という懸念は当然です。ただ、GIGAスクール構想の機器整備は、どんなに急いでも数ヶ月かかります。今は非常時ですから、全てが揃うまで待つという発想は棄てましょう。家庭のネット・スマホ普及はすでに9割以上あります。連絡応答レベルであれば、手持ちのスマホで十分機能するメリットを活かすのです。

これまで対面と紙に依存してきた連絡手段を、スマホレベルのクラウド活用で迅速化し柔軟性をもたせるだけで、学校・保護者・児童生徒間の意思疎通は大幅に改善されます。やりとりの頻度が上がれば、相互の情緒的安定や関係維持にもつながるでしょう。これは、形だけの遠隔授業アリバイ作りよりずっと大切で、かつ今まさに必要とされている事です。

ちなみに「ネット環境があればどこでも自分の情報が呼び出せる」は機器やネット接続環境を選ばないので、いずれGIGAスクールでフルセットのPC環境が整えば、スマホレベルでやりとりした情報もすべて引き継がれます。

例えば、家庭機器の利用を前提として運用を考えると、統計上、連絡応答レベル(スマホレベル)を広く遍く実現するためには約13%をケアする必要があります。しかし、学習に必要とされるPCレベルを求めれば、5~7割に跳ね上がってしまいます(家庭の主要な情報機器はスマホに置き換えられてしまったということです)。
自治体レベルでPCのない50~70%に情報機器を保障するのは難しいので、まずは、多くとも13.7%にモバイルWi-Fiルータを配るなどして、スマホレベルの利用から始められるメリットはかなり大きいと言えます。

表:統計から見たスマホ・PCレベルのデバイド率(手段を持たない人の割合)

その4:持続的学習基盤の形成

持続的学習環境の構成*としては、大雑把に【内容伝達と相互作用】の2側面があります。
結論から言うと、児童生徒が学習持続するには、内容そのものよりも相互作用の方が危急度も希少価値も高い。与える学習内容はいくらでも代替が効きますが、学習者個人をきちんとケア出来るのは、相互作用出来る担当教員しか居ないからです。

フルタイムの一斉授業を想定すれば、場所・時間・内容すべてを教員が管理すべきと考えますが、オンラインの遠隔授業で1日中子どもを画面の前に縛り付けるのは非現実的です。一方、紙の束(ドリル教材)を課題割り付けして、登校日に丸付け、では相互作用が疎になり過ぎてしまい、子どもはあっという間に意欲を失ってしまいます。

当面のスマホレベルの学習環境であれば、教材は紙媒体や他サイトの短時間動画を用い、短時間ホームルーム(ビデオチャット)・進捗確認など、オンライン相互作用の頻度を高く保つことが肝要です。児童生徒は自宅に居るのですから、学習方法や時間配分はある程度任せざるを得ないわけです。間違っても、子どもの学習時間を全部を掌握しよう、などとは考えてはいけません。

内容伝達をある程度外部リソースに任せ、相互作用部分をオンラインでこなせば、授業時間張り付きである必要もないので、教職員の在宅勤務も可能になりますし、業務時間内でも質の高い応答が可能になります。公式IDは非常時以外時間外対応しないルールにしておけば、寝不足になることもありません。

*持続的な学習基盤は、スマホレベルとPCレベル(GIGAスクール)とでは出来る事が違います。ここではスマホレベルの内容を主に扱っています。PCレベルとの違いは別の機会に解説しましょう。

トップダウンで即断すべき

公式ID付与とスマホレベル活用の決定は、ボトムアップで時間をかけるより、首長・教育委員会レベルで即断すべき事です。また、情報弱者対応は行政が担うべき領域なので、特に、各地の地方議員さんには、教委に積極的に働きかけていただきたいです(まとまった資料があるのでDMいただければ提供します)。

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