15 ステークホルダの対学校姿勢モデル
学校の社会的評価・評判形成において、ステークホルダが学校に対して取る姿勢は、いくつかのグループに分類して捉えることができます。これは広報活動の方針を見極める上でも役に立ちます。
例えば、会議で意見聴取・意志決定をする場面では、俗に「声の大きな人の意見が通りやすい」とか「場の空気を読む」といった事が経験的に語られます。大雑把な言い方をすれば、集団における意思形成の場面では、次のような特徴を捉えることが出来るでしょう。
- 大多数は沈黙を保ち、直接的な意見表明をする機会はあまりない
- 強い意見表明をする人は全体の割合からみれば少数である
- 個々人の意見や判断は少数の強い意見表明に影響される
学校の社会的評価・評判形成におけるステークホルダの態度には、次の3つのポイントがあります。いずれも社会心理学で用いられる用語です。
- サイレント・マジョリティ(Silent Majority)
沈黙の多数派という意味で、積極的な発言行為をしない大多数の勢力のことを指します。この言葉は、1969年11月3日アメリカのニクソン大統領が演説のなかで用いたことで有名になりました。政治的に「声なき声」として扱われることもあります。 - ボーカル・マイノリティ(Vocal Minority)
サイレント・マジョリティの反対語で、声の大きな少数者のことを指します。ボーカルのかわりにノイジー(Noisy)やラウド(Loud)があてられることもあります。 - バンドワゴン効果(Bandwagon Effect)
ある選択が多数に受け入れられている、あるいは、流行っているという情報が共有されることで、その選択への支持が一層強くなることを示します。バンドワゴンとは、行進先頭の楽隊車のことを示し、時流に乗るとか、多勢に与する、という意味になります。また、バンドワゴン効果の対義語をアンダードッグ効果(underdog:負け犬のこと)といい、あわせてアナウンス効果と呼びます。
学校の社会的評価・評判形成は、ボーカル・マイノリティの意見に左右されることがままあります。大多数の人々は学校に対して直接意見表明しない、という現実とともに、バンドワゴン効果によって、サイレント・マジョリティがボーカル・マイノリティの影響を受けるからです。
図1 ステークホルダの対学校姿勢モデル
仮に、横軸に主張の度合い、縦軸に学校運営への合理性をとってモデル化すると、意見する少数には次の2グループがあることに気づきます。
- 協力者や参画者
このグループの人々は、学校の現状や方向性を読み取ったうえで、より良い学校にするために合理的・建設的な意見を述べます。指摘は時として辛辣で厳しいこともありますが、教職員の側からは気づかない側面もカバーする、学校の応援団としては欠かせない存在といえます。 - モンスター・ペアレント(Monster Parent)
このグループの人々は、自分本位で学校に対して身勝手・理不尽な要求を繰り返します。強い主張を行う点は前者と同じですが、協力者や参画者との違いは、常識からの逸脱と、要求の非合理性にあります。
モデルのハイリスク状態
学校にとって最も避けたい状況とは、ボーカル・マイノリティが学校に対して否定的かつ強硬姿勢になり、これが悪評や噂になることで、サイレント・マジョリティが影響されて、全体が殺伐とした雰囲気になってしまうことです。
周囲の評判が良くないと、協力者が得られにくくなったり、交渉事にも余計な時間を必要とするので、学校運営にも支障をきたします。また、万が一、事件・事故・不祥事等で学校が危機状況に陥った時、周囲が非難一色になってしまうため、信頼回復が著しく困難になります。こういった危険をはらんでいるのがハイリスク状態です。
先に、協力者・参画者とモンスター・ペアレントとの違いは、常識からの逸脱と、要求の非合理性にあると指摘しましたが、学校広報や協働のプロセスが十分に機能していないと、学校の現状理解が進まないうえに、建設的な意見を受け入れる機会がないので、本来、協力者・参画者の役割が期待される人々が、モンスター・ペアレントの位置付けに接近してしまいます。
図2 モデルのハイリスク状態
モデルのリスクマネジ状態
学校とステークホルダとの間に信頼・協調関係があると、ボーカル・マイノリティの協力者・参画者の人々が、積極的かつ建設的な意見を盛んに述べるようになるので、サイレント・マジョリティもまたそれに影響されて、学校への参加度を高めます。
こういった状況では、ステークホルダの信頼はより安定したものになるので、交渉事もスムーズに進みますし、危機状況になっても、学校だけが孤立するという最悪の事態は避けられるでしょう。
また、協力者・参画者の建設的な意見に全体が牽引される状況では、一方で、身勝手で理不尽な要求を繰り返すモンスター・ペアレントの影響力を抑えることにつながります(ただしモンスター・ペアレントは周囲と無関係に行動するのが特徴なので、発生自体を減らすことは期待できません)。
図3 モデルのリスクマネジ状態
リスクマネジ状態のための手立て
さて、リスクマネジ状態を作るのが学校にとっての理想とすれば、どのような手立てを取るべきでしょうか。
- たとえ少数とはいえ、(現在付き合いのある人以外にも)協力者・参画者になり得る存在があることを、普段から認識すべきです。こうした貴重な存在を逃さないようにするために、情報提供・説得・意見聴取の機会はまめに設けるべきでしょう。
- 協力者・参画者にあたる人々は、学校が直接動かなくても、多様な場面で学校の良い話題を広めてくれる存在ですが、学校が率先して相互のやりとりをオープンに広報すれば、(バンドワゴン効果によって)学校の評判もより高まりやすくなります。
- サイレント・マジョリティにあたる人々は、滅多に自分から意見しませんが、だからといって、学校に対して特に不満がない、満足しているという訳ではない、ということに留意すべきでしょう。また、ボーカル・マイノリティの意見が突出すると、しばしば、議論が極端な方向に偏ってしまいがちです。声の大きな意見にばかり注目し過ぎると、サイレント・マジョリティのストレスが増大して、時に予期せぬ事態を招くことがあります。
したがって、サイレント・マジョリティに対する普段からのケアもまた大切ということです。