スマホとSNSは教室に根付くか

4/20はAPP(学術政策プラットフォーム)準備会第2回から派生した教育分科会第1回研究会として(まだ正式発足していないけれど)、韓国教育学術情報院(KERIS)の曺圭福先生から「スマホBYODとクラウドSNSを活用する授業の可能性」の話題提供をいただいた。以下、メモから簡単に記すことにしよう。


スマホBYODとクラウドSNSを活用する授業の可能性

小中高生のデジタル機器利用率推移をみると、近年はパソコンが大幅に落ち込むのに対してスマホの急増が目立つが、日本に限らず、韓国や米国でも学校でのスマホ利用は悩み多き課題となっている。教室に持ち込みをOKするか、自己責任で利用させるか、保護者が監視するべきか、など。

今回紹介した事例では、児童の教室でのスマホ利用を禁止せず汎用のSNS(BAND)を用いて授業で積極的に活用するもの。授業場面でもスマホの操作画面を表に出したまま、あるいは席移動にスマホを伴って授業を受ける。主体的な学習活動として調べ物、SNSへの書き込みによる協働学習が展開されるが、ゲームで遊んでいる子はいない。アナログ・デジタルの選択は各児童の自由に任されており、作業場所も班ごとに自由に決めている。出力もスライドデータ・プリンタ紙出力も使い分けがなされる。

各自がスクリーンを所持しているので、異なるアプリの併用(セカンドスクリーン)もよく見られる。教員が正面のデジタルテレビでSNSの画面を提示すれば、その前後の情報を各自スクロールして読んだり、といった自然な動作も。

班活動で話し合いをしながらSNSにダイレクトに打ち込んでいく。

異なるアプリを同時に操るセカンドスクリーンの様子。こうした行為は児童の学習活動がある程度自由でないと出てこない。

この事例としては、英語・国語・情報倫理・算数・社会等があるが、重要なのは、知識は一方的に教えただけでは身に付かないということだ。よりリアルに近い体験・活動・討議を通じてはじめて態度が変わるのだから、学習構成もそのようにする。

最初は、社会一般の事象についての調べ学習から始まり、自分達の活動へ引き付ける流れとなるが、スマホを用いた検索だけでなく、ロールプレイの動画撮影・SNSでの共有・発表までをフォロー出来る。児童は数分程度の寸劇のシナリオづくりや撮影を手早くこなす。

この事例で用いられるSNSはBANDと呼ばれる汎用クラウドサービスで動画の扱いに優れる。担任と学級児童に加え、多くの保護者が登録しており、授業の様子や成果を共有出来る。実際には韓国内の学校でのICT利用は制約が多く、動画やクラウドは禁止されていたり手続きがたいへん。この事例は公立校の先生だが、うまくやっている。

デジタル教科書のケースでは、教育専用の仕様やクラウド・SNSを作ろうとしてきたが、現実としては誰も管理出来ない(著者注:これは日本も全く同じ)。むしろ、児童生徒の日常であるスマホやSNSの中に位置付けないと上手くいかない。活用されなければデジタル教科書の良さも分からないだろう。

(ここまで)


韓国の授業形態は日本と非常に似ているので、カリキュラムや授業環境を考察するうえでは大きな違和感がない。ただし、日本も韓国も教育のICT活用に関しては国際的には共に劣位にあるので、欧州のような授業スタイルの大胆な変更に結び付きにくいのは悩ましいところだ。でもなお、この事例はたいへん興味深い。文中にも記したが、紹介された事例で僕が注目したのは、

  1. 授業統制が緩め(時間的に余裕をもって組まれている)で、児童が手段・方法・段取りの選択を比較的に自由に決めていること、つまり、学習者主導で道具は文房具として位置付けられていること
  2. 単元が一般的社会事象→身の回りの認識→表現活動で構成されており、いずれのシーンにもスマホとSNSが活用されていること
  3. SNSが教員・児童・保護者を相互につなぎ、より頻度の高い密な活動情報がシェア・蓄積されていること

の3点だ。

1.と2.に関して、スマホもSNSも汎用だから、教員主導・教具型の立場なら「授業と関係のないことをする」「気が散って集中できないのでは?」といった懸念が表明されそうだが、これは授業のやり方次第だということが分かる。つまり、学習活動として拘束するレベル(目標レベルか手続きレベルか)が違う。

例えば、教員主導の手続きレベルで拘束すれば、関係のないアプリや操作は教員から見れば邪魔なので全部隠してしまいたくなるが、学習者の反応は教員想定内で単純化され、思考も表面的なものに留まってしまう(僕が多くの公開授業研で一番落胆するのはこれだ)。

一方、学習者主導を前提に目標レベルで拘束すれば、道具のもつ汎用性や多様性を活かして活動にも個性や深みが出てくる。加えて、子どもたちが普段私的領域で情報消費を中心に使っているスマホやSNSに対して、公的な知的生産の意義を付加する点は見逃せない。これは学校でしか出来ないことだ。

3.のSNSは私がこれまで手がけてきた学校広報(学校サイト)の発展型であり、保護者が学校での学習活動を具体的に把握し、発展的にこれらに参加するための重要な足掛かりを与えてくれるものだろう。

日本の国内でもぜひこのような事例を展開してみたいものだ。

なお、APP教育分科会は教育情報化政策・施策への提言を目標として、半年を最初の目処として研究会を重ねる。近日中に各回の開催日とテーマをこちらにまとめる予定。ご興味のある方はぜひ参加していただきたい。

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